正面からぶつかって開けた道【アスクラボメールマガジン2019年10月号】

弊社が創業した当時、岡山県の県北地域は、政治的・人脈的にコンピュータベンダー F社が強い地域でした。加えて、当時の商工会議所会頭がF社の大手ディーラーと共同でシステム会社を設立されていたため、地域の主要な企業ではF社のコンピュータ
システムが導入されていました。私の父が経営に携わっていた自動車ディーラーもF社のシステムを導入していました。
そんな地域環境の中、弊社はコンピュータベンダーN社との取引をはじめ、顧客ゼロからコンピュータ関係事業をスタートしました。

30年近く前のことになりますが、地域の中核病院がアウトソーシングの形態でシステムを導入することになった時のことです。 当時その病院ではITはほとんど導入されていなかったため、経営陣、ドクター、看護師、事務方を含めた11名の「導入選考委員会」が設置され、ベンダー選択のための調査や検討を進めていました。
コンピュータ関係事業が発展途上であった弊社でしたが、その商談に加わることとなりました。競合する各社が様々な手段を使って選考委員会のキーマンに営業攻勢をかけていましたが、商工会議所の会頭の人脈で形勢はF社優位・ほぼ決定という状態でした。
他社に比べて特別なコネも人脈も政治力もない弊社は、不利な商談であるのは覚悟の上で真正面から営業活動するより方法がありませんでした。
そのような状況でしたが、権力を持った人の近くにはその人に反感を持ち、反発する人たちが必ず存在し、偶然にもその反発する方々の後押しを受け、わずかな差で弊社に受注が決まりました。

受注が決まった後、私は商工会議所の会頭に面会を申し出て会いに行きました。 自分が疑問に思ったことを率直に言いたかったからです。
私の疑問とは、商工会議所は地域の会社を育てる・支援するのが目的のはずであり、そのトップである会頭が地域の伸びようとして頑張っている発展途上の会社のビジネスを、真正面からの営業がおよばない部分で阻むようなことは矛盾していないか?ということでした。 私の率直な問いに、会頭は無言で考えられていましたが、「わかった。もう君のビジネスの邪魔は一切しないと約束する」と言われました。
年配で立場のある方に対して、私の発言は少なからずビジネスルールからは外れていると思いますが、正面から思いを伝えたことに対して懐の深い対応をして下さいました。

それから後のことですが、会頭より電話があり、会議所の仕事を手伝ってほしいと依頼されました。そこにも会頭の懐の深さを感じましたが、当時の弊社はビジネスにおいてまだまだ発展途上の状態でもあり、本業に注力することが本分であると思われたため、正直にそのことを伝えました。
会頭は「副会頭のMさんが君を推薦してくれたから、Mさんにはお断りに行った方がよい」と助言して下さいました。そしてM副会頭に面会し、会頭へ伝えたことと同じ説明をしたところ、「それほど本業に熱心であれば、私の会社のシステムを請け負ってくれ」と依頼されました。現在も、メインユーザの一つとして取引をさせて頂いています。

影で批判や悪口を言わず、正面からぶつかって当事者に思いや考えを伝えた結果、弊社のビジネスの壁であった相手も、結果として大きな支援者になってくれたのです。

アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙