mailmagazine201303

「リーダーになるために必要なことは、孤独に耐えることができるかどうかだ。」
 これは、私が会社を設立して間がないころ父に言われた言葉です。

 私の父は自動車販売会社で経営に携わっていましたが、私はその会社に入社をしないで、自ら会社を設立しました。父の言葉は、社会人になると同時に企業のリーダーとなった私の立場を案じてのものだったのでしょうが、その当時の私には、会社にはいろんなスタッフがいてにぎやかなのに、なぜ「孤独」になるのかを理解することはできませんでした。しかし、ビジネスの経験を積むにつれて、父の言う「孤独」を肌で感じるようになりました。

「孤独」ということを一番実感したのは、会社のビジネスモデルを変更したときでした。弊社がITビジネスを始めたころは、市場の景気も良く、コンピュータも汎用機やオフコンがメインの時代だったので顧客の囲い込みが容易でした。汎用機やオフコンの場合、お客様と一度取り引きを始めると、ソフトウェア資産継承の関係で大きなミスさえしなければ安定して仕事が入ってくるという状況でした。

しかし、景気に陰りが見え、市場の経済状況も大きく変化しはじめると、顧客自体の収益性も不安定となり、コストと時間がかかるスクラッチ開発は敬遠され、スピーディかつ低コストで経営課題を解決するためにパッケージソフトの導入を検討するなど、顧客のニーズが変わってきました。

その市場の変化をリーダーとして感じた私は、スクラッチ開発の収入と地方都市経済に依存したビジネスモデルでは、近い将来、会社存続の危機につながると確信しました。そこで、今までの弊社を振り返り、成功と失敗を含めて一番経験を積んでいる新規開拓含めた営業経験のノウハウを活かすことを考えました。

それが、組織営業力強化のためのパッケージソフトの開発と、営業力強化の研修を含めたコンサルティングメニューによる、地方都市に依存しない全国ベースでの市場開拓を行うビジネスモデルへの改革のスタートでした。

この計画を社内会議で説明した際、その場で面と向かって反論するスタッフはいませんでしたが、その顔色や表情には不安の色がありありと浮かんでいました。確認したわけではありませんが、おそらく「地方の小さな会社がそんな商品や商材を作っても、同業者の多い都会で売れるわけはない。うかつにそんな話に乗って失敗すると、自分の居場所がなくなってしまう!」と思っていたのでしょう。

私はリーダーという立場上、企業の将来を見据えて予測を立てざるをえませんが、スタッフの立場では現状認識が当然です。当時はまだSIの仕事が途切れることなく入っていたこともあり、意識のズレが生じても止むを得ない状況ではあったと思います。

このズレが生じた状態で指示命令を出すわけですから、理解や共感がすぐには得られず、必然的に孤独感や孤立感が生まれます。リーダーの将来予測とスタッフの現状認識による意識のズレは、ビジネスを行っている限り日常的に生じます。仮にこの意識のズレが生じないようであれば、リーダーがスタッフと同じ位置で物事を考えているということになるわけですから、私自身がリーダーの役割を果たしていないということになります。

今では、意識のズレやスタッフとの意見の違いも、リーダーの役割を果たしていることと実感し、少しは孤立や孤独を楽しめるようになりました。企業経営に関わるリーダーとして先輩であった父の教えを実感できています。 

アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙