ビジネスモデル変更への挑戦【アスクラボメールマガジン】

当社は岡山県北部の津山市(人口10万人弱)において、SIを中心にビジネスを行ってきました。今から20数年前は、コンピュータと言えば汎用機やオフコンがメインで、システムはスクラッチ開発が大半でした。

そのため、一度システムを導入してユーザになっていただくと、その後は定期的にユーザを訪問し、ユーザからのリクエストを吸収して対応すればよい・・・というビジネスが成り立っていました。
スクラッチ開発を前提にして人員(SE)配置するというビジネスモデルだったため、予算作成時には案件が見込め、特に改革や改善をしなくても黒字となる状況でした。
ある意味「好調」とも言えるそんな市場背景のもと、社内では悪しき風土が形成されていました。

例えば、営業と技術の関係は決してよいものではありませんでした。
なぜなら、営業はSEが作成した提案・見積りにマージンを載せてユーザに提示し、提案の説明はSE任せ、案件が決まると後はSE任せといった状況だったからです。
また、管理者とスタッフの関係は、時間を持て余した管理者が自分の都合でスタッフを呼びつけて「アドバイス」と称して長い説教を行い、会議においても実績数字を中心とした内容で、スタッフのできていない所を指摘するなど、とても雰囲気がよいと言える状況ではありませんでした。

しかし、そんな社内の状況に反して損益は悪くなかったのです。
私は経営者として、このような状況を直感的に「危ない」と思っていました。

間もなく、ユーザをとりまく経済環境も段々と厳しくなり、費用面・納期面を考慮してスクラッチ開発よりパッケージを要望されるユーザが多くなりました。
まさに私が持っていた危機感が現実となったのです。

その結果、スクラッチ開発からパッケージメーカへの転換、自社の風土改革、地方市場から全国市場へのビジネスモデル変更へと、覚悟を決めて取り組むこととなりました。

そのような背景のもと、自社で開発したPROナビ(組織営業力ツール)を活用して、以下の項目へ取り組みました。

1.「義務」から「自分を守る」へ
PROナビへの日報登録は、義務ではなく自分自身を守るために活用。
全国市場へのビジネス展開の足がかりとして東京支店を開設しましたが、販売先の当てがあるわけでもなくすべてが新規開拓営業でした。すぐに実績数字が期待できない状況下にあって自分がどのようなことに取り組み、どのような活動・仕事をしているかをPROナビに登録することで、その行動を社内関係者に知らしめることが可能になり、結果、自分自身を守ることにつながります。

2.オープンな言動
オープンな言動を行うためのツールとしてPROナビを活用。
上司のアドバイスや指導がPROナビ上で関係者にも見えるようにしたため、他から見ても納得するアドバイスや指導が必要とされる状況となり、上司のスキルアップにもつながります。

3.聞きたいときに聞ける
スタッフが聞きたい・尋ねたいと思ったときにPROナビを活用。
上司や相手の都合を考慮しなくてもダイレクトに質問がでるため、「聞きたい」と思ったタイミングを逃さずに質問を吸収し、必ず回答がくる「しくみ」を作り活用しました。

4.チームで考え・悩む
属人的な仕事のやり方から、チームで仕事を行うという意識の徹底。
PROナビで情報・問題を共有することにより、属人的な知識で対応していた事項もチームで対応するという意識を徹底しました。

5.会議は少なく・短く
PROナビで情報共有を行うことにより、会議回数の削減と時間短縮。
社内の各部署リーダーを集めた全体的な会議については、原則1回/月とし、会議時間も1時間に設定して取り組みました。会議における参加者の集中力を上げることにもつながります。

6.欠点探しから長所探しへ
日報に登録された内容から、お互いの欠点を探すのではなく長所を探す。
管理者の目から見てスタッフに不満があっても、簡単に会社を辞めさせることはできません。
逆にスタッフから見て嫌な上司でも、簡単に部署を変えることは現実には不可能です。お互いに欠点を探すのではなく、それぞれの日報から長所を探すことを意識づけました。

7.セクショナリズムをなくす
自分の部署が一番大変という意識の排除。
PROナビにより情報が全社的に共有され、お互いの仕事内容がオープンにされた結果、自分の部署のみでなく他の部署も大変だと理解しあうことが可能になりました。

8.人材育成のための「見える化」
PROナビによる全社的情報共有による「見える化」。
スタッフの育成は上司の力だけでは不可能です。同僚や後輩の仕事の「見える化」により、当事者が刺激を受けて自らの成長を促せる環境を作りました。

これらの改革がすべてスムーズに進んだわけではありません。協力的なスタッフが半分弱、面と向かって反対はしないが非協力的なスタッフが半分強といった状況でした。
営業の管理者が、配下のスタッフが改革に抵抗すると悩んで相談に来たこともあります。
そのとき私は、抵抗するスタッフが全員退社することになってもいいから進めろと指示したこともありました。改革が確実に成功する保障はありませんが、改革をしなければ市場から退場を求められることとなると確信していました。

そして現在、多少の人材的犠牲はあったものの、大半のスタッフが活躍してくれています。

新規開拓からスタートした東京支店も、現在では売上額が本社営業に並ぶ程になりつつあります。自社に対して危機感を持ったあのタイミングでこの改革・ビジネスモデルの変更に取り組まなかったとしたら、当社の売上は半減しスタッフも半数にしなければならないところでした。
新規開拓コスト、PROナビのシステム開発により現在は損益が合っていない状況ではありますが、風土改革もビジネスモデルの変更もかなり進みました。

まだ道半ばの状況ですが、経営責任者としては20数年前の黒字の時代より、現在の方が、大きな期待感を持っています。

アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙