私の企業経営に大きな影響を与えたのが、今から10年ほど前に聞いたある講演でした。その講演は、元ゼロ戦パイロットで撃墜王と呼ばれた坂井三郎先生の「限界におけるリーダーの条件」という講演でした。

講演の最初に坂井先生は先ず、私の一番の自慢は敵機を何機撃墜したかという数ではなく、出撃で部下を戦死させたことが少ないということですと話されました。空中戦で部下を戦死させない為の方法は一つ、それはいかに相手より早く相手を見つけるかということで、そのために毎晩基地の滑走路に部下と寝転び、夜空の星を見ていたとのことでした。

大変興味深い話題がいくつもありましたが、特に印象に残ったのが次のお話しでした。ある出撃の帰り、悪天候で視界が非常に悪くなり、リーダーである坂井先生にも基地の場所がわからないような状態となったそうです。その上飛行機の燃料も残り少なくなり、さすがに坂井先生ご自身も、部下を引き連れて無事に基地まで帰れるかどうかと、不安な思いをされたそうです。

先生が言われるには、リーダーが不安になると部下が即それを感じ取り、編隊が乱れてより危険が増すそうです。案の定、その悪天候の際は編隊が乱れ、このままでは危険な状態に陥ると思い、どうやって部下の不安を解消するかを考えたそうです。そして、出撃する時に配給されたおにぎりがあることを思い出し、ゼロ戦の風防をあけて部下に見えるようにおにぎりを食べたそうです。

それを見た部下たちは、この状態で隊長がおにぎりを食べているのだから、隊長は基地の場所を把握されているのだと安心し、編隊は元通りに揃い、残り燃料もぎりぎり一杯のところで全員基地まで帰ることができたとのことでした。

この講演を聴いて、私は企業経営に置き換えて考えてみました。そして、予算数字を追いかけて達成したことのみの成果だけでなく、部下を育てる必要性を再認識するとともに、会議という名目で上層部の不安を管理者に広げ、さらに管理者の不安を現場に広げる無意味さを改めて反省させられました。

アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙