「見えてきた特約店制度の限界」【生き残るための新経営道場(第2回)】

特約店制度崩壊の原因は、特約店側にもある。 あまりにもメーカーに依存し過ぎてきたからだ。 システム・プロバイダは特約店制度に縛られることなく、得意分野を 鮮明に打ち出すと同時に、中堅・中小企業の仕組みが分からない メーカーに、それを理解させるための補完関係を仕掛ける必要がある。

川嶋 謙/アスクラボ社長

インターネット時代の価格決定権はユーザーにある。個人市場においても、インターネットの普及がコンピュータの販売形態を大きく変化させた。これほどまでにパソコンが普及してくると、ユーザーのコンピュータに関する知識も増え、購入時の説明はほとんど不要となり、パソコンはインターネットで最も購入しやすい商品となった。そこに、メーカーと販売店が入り込む余地はない。ユーザーは複雑な流通形態より、メーカー直販による安い価格を求めている。

特に多くの外資系パソコン・メーカーの日本市場での販売形態は最初から直販指向であり、流通コストは念頭にない。国産メーカーは、特約店制度という足かせを付けられたまま最終価格を外資系メーカーと競ってきた。この時点でどちらが有利かを判断するのは簡単だ。ユーザー・ニーズとメーカーの直販指向は時代の流れに沿ったものであり、この流れを食い止めることは不可能だと認識すべきである。

それでもこれまでは、メーカー各社が色々な形で販売店にインセンティブを支払うことで、特約店制度を維持してきた。だが、パソコンはメインフレームやオフコンと比べると付加価値が非常に低いため、メーカーの資金的な余裕を考えても、この仕組み自体が成り立たなくなってきていることは想像に難くない。特約店制度は既に崩壊し始めているのだ。

パソコンが特約店制度を崩壊させた

ホスト中心のシステム販売の時代には、メーカーと販売店の関係は業務の役割が明確だった。ユーザーがオフコンを導入する場合は、ハードの販売とソフトの作成、メンテナンスは販売店の主要業務であり、メーカーはハードを卸せばよかった。ハードそのものが高価な時代は、メーカーもシェアを確保するために特約店契約を結び、バック・リベートで販売を支援した。販売店は特約店制度によって保護され、何重にも利益を上げる要素が存在した。

ユーザー側から見ても、当時は経済環境にも恵まれ業績が順調に伸びていたので、システム投資に対する考え方も、真の投資対効果を検討することは少なかった。それでも、企業イメージを高めるとか、増加する業務の処理をシステム化によって解決するといった明確な目的が存在した。

しかもユーザー企業は、コンピュータ自体を特殊な存在として扱っていたため、システム開発に電算室やシステム室など特別な要員が携わると決めていた。情報システムは、限られた担当者だけが理解できればよい完全クローズな世界だった。なのでメーカーや販売店などが提出する提案書の内容や、その価格が適正であるかどうかなど判断できる者自体が少なかった。このことはハード価格だけでなく、ソフト開発の価格が維持できた要員の一つでもある。

そこにパソコンが登場する。当初は1式が100万円近くしていたが、それでも新しい機種が出るたびに飛ぶように売れ、そこから上がる利益も高かった。このころ、販売店は特に努力をしなくても、勝手に客がパソコンを指名買いしてくれるバラ色の時代だった。だが、パソコンが普及したことで、一部の人しか持っていなかったスキル、知識、情報などがあっという間に拡大し、コンピュータはもはや特殊な人のための特殊な機器ではなくなった。個人がパソコンを業務に利用し始め、コンピュータは電算室やシステム室など限られた部署から利用現場へと飛び出した。エンドユーザー・コンピューティング(EUC)の時代が幕を開けたのだ。

この間、特約店はあまりにもメーカーに依存し過ぎてきた。特約店はメーカーの販売方針にそのまま従い、メーカーが発売するハードの技術的アドバンテージに依存し、利益もハード販売で得られるメーカーからのインセンティブに頼るだけだった。そこでは、システム・プロバイダが他社にない独自性を作り出したり、自社の強みを磨いたりといった努力は見られず、メーカーの傘の下で守られた企業運営を続けることになる。一方的に依存する体質では、メーカーの体力がなくなってくると、システム・プロバイダの体力はそれ以上に落ちていく。それまで不可侵だった他社メーカーからの侵略も頻繁になり、価格競争の時代へ突入する。当然、安定収入だったハードの保守料もサポート料も減少する一方だ。

サービス時代はメーカーとも競合する

メーカーもハードで利益が上がらなくなってくると、新しい分野に乗り出さざるを得ない。付加価値サービスの分野である。この分野はそもそも、システム・プロバイダが以前から取り組んできた市場であり、メーカーも手間ひまがかかるので興味を示さなかった市場である。しかも、この市場では、メーカーとシステム・プロバイダの区別がつきにくく、結果的に競合にならざるを得ない。特にインターネット社会では、メーカーやシステム・プロバイダなどの売り手側の理論で、営業地域や役割分担を決めることはできない。すでにメーカーは、ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)やASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)といったネット型サービスを利用して顧客の囲い込みを進めている。

では、システム・プロバイダはどのように生き残るのか。まずは、これまでのように単純にエリア拡大を目指したり、ハードやソフトの販売、システム構築などにおいてメーカーのミニチュア的な発想をしたりすることを捨てなくてはならない。自らも中堅・中小企業である優位性と独自性を出すことで生き残る。我々のターゲットは、我々と同じ中堅・中小企業である。

メーカーの弱点は大企業である点だ。大多数の社員は会社という仕組みの全体をつかめていない。メインフレーム中心の利益構造であったため、大手企業相手のビジネスがメインであった。日本の企業の約9割が中堅・中小企業であるにもかかわらず、この市場のユーザー・ニーズは把握し切れていないというわけだ。しかも、大手企業のシステム構築にしても外注に依存してきたため、現場のノウハウはシステム・プロバイダに一日の長がある。何しろ中堅・中小企業市場は、自らが属し、同じ経験をしているシステム・プロバイダの市場なのだ。

※この記事は日経BP社の許可を得て「日経システムプロバイダ」2001年8月17日号p60-p61より転載したものです