役職や権限はビジネス上のもの【アスクラボメールマガジン2021年12月号】

私は、大学を卒業した後、岡山県の地方都市でビジネスの世界に入りました。その頃出会った経営者の中には、地位や立場や年齢が上というだけで、自社の社員に対して、また私のような経験の少ない若者に対して、大きな態度・上から目線・命令口調という古い体質の方も多く、「経営者」という人たちに少なからず嫌悪感を持っていました。もちろん、人物的に素晴らしい経営者の方々にも出会いましたが、当時経営者であった私の父に、そんな不満を話したところ、年配者を批判したところで何も変わらない、もし自分が経営者になったときに、自分自身がそのような経営者にならないようにすればよいと諭されました。その父の言葉を機に、ビジネス上の役職や権限はビジネスの範囲内でのことであり、ビジネスを離れたプライベートでは誰でも平等であり、役職や権限は関係ないという考え方が身につきました。

かなり昔のことです。著名な大企業の経営者A氏が経団連の会長候補にあがったのですが、結果は落選でA氏は落ち込まれたそうです。当時私はA氏と多少の親交があり、側近の方からの連絡でA氏に面会をしました。面会の冒頭A氏は「俺は外されたと」発言されたのですが、私は素直にA氏を気の毒に感じました。会長になれなかったのが気の毒なのではなく、日々・24時間、役職や権限から逃れられず、肩書きのない一般人になれるプライベートがないのが気の毒と感じたのです。私はA氏に「故郷の町を歩いていて『Aちゃん!』と声をかけてくれる人はいますか?それがなければ、本当の意味でプライベートに戻る場所がないというのは気の毒ですね」と話しました。

会社の役職や地位・権限には期限があります。その期限が切れたときに戻れる場所が必要であると私は思っています。戻れる場所を作るためにも、日常から役職や地位・権限の範囲とその期限を意識する必要があると思います。

これもかなり昔のことですが、身内が重い病気にかかり、その専門医が有名国立大学の教授で多忙なため、面会はおろかアポイントをとることさえ難しい方でした。何度もアポなしで大学の研究室を訪問しましたがやはり面会はできませんでした。ある時、大学の庭を手入れされている方がいて、その方に話し掛けると「私は用務員的な立場の者なので私には権限も影響力もありません」と言われました。しかし私は、大学を訪問するたびにその方を訪ねました。するとある日、「ほとんどの方は、権限が無いことを伝えると私の所へは来なくなりますが、あなたはそれを伝えても私に対する行動が変わらない。私でできることは協力します」と言って下さいました。結果的に、その方のおかげで教授に面会が叶い、私の身内は治療を受けることができ、現在も元気にしています。

ビジネス上の役職・権限はプライベートに及ぶものではなくビジネス上のものでしかありません。また、無期限に続くものではなく期限があります。プライベートでは一個人として、役職や権限、年齢関係なく、誰もが平等でフラットな立場なのです。

アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙