経営は経費に見合う収入があって成り立つ。多くの報酬(会社には 経費)を得ているトップも、収入を生み出さなければならない。 だが、中堅・中小システム・プロバイダのトップが現場を離れている。 本業以外の経済団体活動などに多くの時間を割いている。 厳しい経済環境の時代、トップは現場にいなければならない。

川嶋 謙/アスクラボ社長

中堅・中小企業の社長と大企業の社長は、同じ社長でもその役割は大きく違っている。大企業は社会的信用力、資金力、人材など、どれをとっても中堅・中小企業に比較して大きなアドバンテージがあるからだ。だが、このことが即、ビジネスの競争において必ずしも不利に働くわけではない。

一般に、大企業のトップはサラリーマン社長である。企業の中には多くのしがらみがあり、社長自身の考えを実行するに当たっては、多くの時間を費やしたり社内の根回しに時間がかかったりと、体が大きいだけにそのスピードにジレンマを感じずにはいられない。大企業であるがために、市場の変化やニーズを一番把握しているはずの現場からの情報が、スピーディーかつ正確に経営陣に伝わっているようには見えない。

それに比べて中堅・中小企業は、大半のトップがオーナーであり、大きな権限を持っている。その大きさが致命的な状況を生み出す場合もあるが、権限を最大限に利用すれば、規模のハンディをアドバンテージに変えることができる。そのためには、中堅・中小企業のトップは常に、仕事の現場にいるべきである。

市場、会計、社内の三つの現場を知れ

今のように市場変化のスピードが速い時代には、担当者からの報告やIT(情報技術)を利用した情報のみでは不十分だ。現場に存在してこそ得られる情報を組み合わせて初めて、本物の生きた情報になる。現場には(1)市場の現場、(2)会計の現場、(3)社内の現場の三つがあり、これらの現場に常に存在しようと努めるべきである。

【市場の現場】トップは常に、現場意識を持って市場の変化を肌で感じていなくては変化への対応に遅れてしまう。具体的には、

  • 市場動向の監視
  • ユーザー・トップの要望と問題点の把握
  • 現在、進行中の具体的な物件の把握
  • 将来、利益になりそうな物件の把握

である。トップはトップの立場で具体的に営業活動ができる状況を作っておかなければならない。ユーザー企業にあっても、トップとシステム担当の間には必ず問題意識のズレがある。トップはユーザー・トップの問題意識を把握し、システム・プロバイダの担当者はユーザーのシステム担当者の問題意識を把握する必要がある。そして、トップと担当者の両輪による立体的な営業が最も効を奏する。

特に中小企業のトップはファイティング・マネージャーである。トップ営業ほど強い営業はないはずだ。もし、トップが創業者であるならば、創業当時に行っていたような営業をトップ自らが再開してほしい。市場の動向を的確に捉えるためにも、トップは現場に常に存在しなくてはならない。

【会計の現場】経営は感覚ではなく、計数によってしっかり把握されていなくてはならない。具体的には、

  • 財務諸表(決算書)の把握
  • 計数を自分で判断できる眼を持つ
  • 決済スピードを上げる
  • ユーザーとの取引条件の交渉力を付ける

ことである。トップの立場で自社の足腰を常に把握するためには、税理事務所など第三者を通さずに経営状況を的確に判断できる眼を養っておかねばならない。競争と変化のスピードが速い時代を生き残るためには、日次決算ができる体制を作っておきたいところだ。財務が分からずに会社を経営することは、自動車の運転にたとえれば無免許運転に等しいのである。

営業フェーズで考えても、ユーザーと取引条件を交渉する場において、自社の財務状況を把握しておけば決断が早く、交渉は有利に展開するはずである。

【社内の現場】トップは組織の機能と社内の雰囲気を常に把握しておかなくてはならない。具体的には、

  • 幹部の役割の把握
  • 社員のスキルの把握
  • 組織の活性化

である。トップは自社の幹部の役割及び社員のスキルを把握し、適材適所の配置ができなければならない。特に中小企業の場合、社員数も多くないので現場にいれば社員のことが把握しやすい。トップ自身が社内体制の現場にもっと近づけば、社内の雰囲気を知り社員のロイヤリティを高められるはずだ。より力の発揮できる組織を育てると同時に、現場に権限を委譲することで組織力を生かした企業力の強化を目指すべきだろう。

ベンチャー企業を目指せ

現場にいるとユーザーの状況と、システム・プロバイダが立てなければならない戦略が見えてくる。今の時代、企業の意志決定はトップダウンである。ユーザー・トップはITを導入することはすなわち、経費が増加することだと頭の中に思い描く。そして、システム・プロバイダが提出する提案書にIT投資がユーザー企業の決算書のどこにメリットとして表れてくるのか(投資対効果)を探す。それが明確に盛り込まれていないと、その企業のトップはIT導入にイエスの判断を下すことはない。

トップの判断基準は常に「収益>経費」という公式だ。ユーザーがITに投資するのは、単にハードやソフトを購入することではなく、それを使うことで業務を改善することである。そのことを一番よく理解できるのは、やはり企業のトップである。つまり経営者は社内のだれよりも現場を知らなくてはならないのだ。

中堅・中小企業のトップは、限られた人材と限られた資金しかない。しかもこれらの限られた資源を有効活用してスピードの速い市場に対応しなくてはならない。ここで最大の武器になるのはトップの現場感覚と小さい組織がゆえのスピード判断と強固な社内意識の統一である。

今後、ハード・メーカーも生き残りをかけ、システム・プロバイダの市場に、ハードの直販とサービスの販売を積極的に展開してくるだろう。さらなる脅威は、新興勢力であるベンチャー企業である。彼らはサービスの現場に続々と参入してきている。ベンチャー企業のトップたちは、常に現場に存在し育っている。システム・プロバイダは、上と下から強く挟まれて身動きできない状態だ。上下の圧力はさらに強くなり、生き残るエリアはどんどん少なくなっていく。

このような状況の中で生き残るには、トップが「社長」という意識を捨て、会社創設の原点に戻り絶大なるリーダーシップを発揮しなければならない。目指すべき方向は、現場感覚を持ったベンチャー企業に立ち返ることなのだ。

※この記事は日経BP社の許可を得て「日経システムプロバイダ」2001年9月14日号p62-p63より転載したものです。