組織の実力を無視した計画が危機を生む 【アスクラボメールマガジン2024年2月号】
■不正がおこる背景
現在の組織全体の実力を認識、把握することなくビジネスの計画を立て実力以上の成 果を求めすぎた結果、組織の危機につながっているケースをよく目にするように思い ます。最近ではビッグモーター事件、それに関連した損保ジャパンの問題、ダイハツ 工業の認証不正などがありました。当然ですが企業経営者は業績向上を目指して目標 を定め、マネジメントを行いますがその目標達成に向かって現場で動くのは感情を 持った人間です。「実力以上の成果」を求められ、それを何とか無理にでも達成しよ うとする行動が不正の要因となるケースが多いように感じます。アスリートにおける ドーピング問題とも類似しているのではないでしょうか。
■実力に見合った目標を立てる
企業の業績不振は当然、マネジメントの能力不足ですが組織の現在の実力以上の好業 績を求めることもマネジメントの能力不足といえると思います。私は投資目的での株 の売買はしませんが以前、ある会合で株の売買で財産を築いた方と偶然に隣同士の席 になった際、その方が「初めて大きな損失を出した。」と、私に話しかけて来られま した。私は「冷たいようですがあなたが欲張りだから大きな損失を出されたと思いま すよ。」と言ったところ、「君は株式投資もしたことがないのに売り時を見極められ るか。」と言われたので「もし、私が株式投資をするなら得たい利益の上限、例えば 20%としてそこを売り時と判断します。」と答えました。儲けるだけ儲けようとする とリスクが増大するように思います。現在の実力を踏まえ、無理のない目標を立てる ことでリスクも小さく抑えられると考えます。
これは私がまだ学生の頃のことですが、今でも鮮明に覚えていることがあります。私 の父は、自動車販売会社で営業統括の専務として経営に携わっておりました。新車を 販売する場合は大抵、お客様の車の下取りが発生し、下取りした車は中古車(商品) として展示場に並べてありました。当時、車が大好きだった私には、展示場に並んだ 様々な車を眺めるのも楽しいものでした。そんな中、なにげなく思いついたことを父 に質問したことがあります。中古車の価格は、走行距離ではなく年式で市場の価格が 決められていました。つまり、同じ車種・グレードであれば5年前の車より、8年前 の車の方が安いということです。そうすると展示場に並べた中古車が売れないまま1 か月が過ぎれば、当然、価格は1か月分下がるはずです。
しかし、たびたび展示場を眺めていた私ですが、車に掲げられた価格パネルが月を経 る毎に値下がりしたのを見たことはありませんでした。市場価格に同期をとる場合、 そのような中古車を数多く抱えていると、毎月かなりの価値の下落(現在で言うとこ ろの減損)が発生するはずです。私は父に対し「市場価格と同期をとらず、価値が下 がっていないのはおかしいのではないか?」となげかけました。父の回答は「その通 り!」とシンプルでした。 しかし、その続きは、組織が抱える複雑さを表していま した。「指摘の通りだが、歴代の営業部長は利益が下がることを理由に誰も任期中に はやりたがらない。長年の悪慣例で困っている。」と、自身もその対応に悩んでいる 胸のうちを明かしてくれました。事実に基づけば利益は下がる。しかし、自分が営業 部長に在任中は利益を少しでも出したい。短期的には価格が高ければ高いほど利益が 出るかもしれませんが長期的な観点からすると、適正な価格・利益を見極めてお客様 へ提供しなければ企業としての信頼が得られず、顧客離れにつながります。大手企業 の管理者の方々とお話する機会があるのですが内部からみて違和感を覚えることはあ るようです。例えば本来、稟議書はビジネス上の目的で作成するべきですが、途中か ら目的を外れ「組織が稟議を通す」ということ自体を目的とした行動になり「おかし い」と声をあげたくても自身の残りの住宅ローンのことなど考えると組織内での生き 残りを考え、声をあげることができない自分がむなしいと悩まれている、というよう なお話を聞くこともあります。
組織の中で生き残るためには、きれいごとばかりでは済まないのかもしれません。し かしながら、厳しい経済環境の中で無駄を排除して効率をあげるためには、現実を知 り、事実を認めた企業が生き残れると実感しています。
■経営者の「見極める」力
自社の組織全体の実力を見極めた上で、実力に見合ったビジネス・予算計画を立てて いるでしょうか。実力以上の成果を求めすぎると将来、問題が発生する可能性が高く なります。商談・見積・契約書作成等におけるリスク管理はほとんどの企業で行われ ています。しかし、組織の実力の把握、組織に属する人々がどう感じているのか、と いう点に関してはマネジメント側の対応が少しなおざりになっている印象です。「P ROナビ」「AIリスク診断」は組織の実力と現場で実際に活動している人達がどう 感じているかも含めた事実の把握に向けて改善を続け、進化しています。
アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙