「慣れ」からくるリスク【アスクラボメールマガジン2023年8月号】
企業活動において業績を向上させるには各部門の担当者が本業に費やせる時間のウ エートを上げる事だと考えています。その為には、会議時間の短縮・商談に関する現 場への権限移譲・社内に対する根回し時間の削減、等が必要です。又、同時に収益減 少・債権トラブルといった日常的なリスクへの対策やコンプライアンスへの対応も適 切に行っていかなくてはなりません。
人間の弱点として「喉元すぎれば熱さ忘れる」といった性質があります。業務中に 起こる事故の多くが緊張や意識をしなくても作業が出来るような場面、「慣れ」の継 続から発生しています。私が社会人になって間もない頃の話です。
ある木工会社を訪問して工場内を見学している時、床に木くずがたくさん落ちていま した。その中で、たばこを口にくわえたままで仕事をしている職人さんがいたので思 わず「危なくないですか?」と声をかけたら、返ってきた返事は「今まで何十年もこ うやって作業しているけど、問題が起きたことはない。」ということでした。
しかしその後、その木工所は火災で全焼したと聞きました。その場面を初めて目にし た部外者の私からすると、いつタバコから落ちた火が木くずに燃え移ってもおかしく ないような危険な状況に見えましたが、毎日その状態で仕事をし、これまで問題がな かった職人さんの側からすれば、何のリスクも感じられない状況だったようです。 今、思い返してみると職人さんは「慣れからくる思い込み」、私は「部外者故に客観 的」というところが相違点だったと思います。
平穏に過ごせているうちに、その状況に慣れてしまい見過ごされているリスクがある と思います。自然災害・車の運転・人間関係・会社の業務活動それぞれにおいて、平 穏な状態が続いているとリスクに疎くなったり、対策を怠たりがちになります。
災害は忘れた頃にやってきます。交通事故も運転に慣れた頃に発生が多いです。人間 関係も遠慮があるうちはいいですが無くなったころ問題が起こりがちです。近年は大 きなシステム的トラブルは発生しなくなりましたが過去にはベテラン営業やSEの「慣 れ」による対策不足や判断ミスに起因するものが多くを占めていました。
人間だけのリスク感知能力だと「今までこれで大丈夫だったから今度も大丈夫」とい うバイアスがかかってしまったり、通常は気を付けていても業務が重なった時に見過 ごしがちになったり、「喉元過ぎれば熱さ忘れる」というように常に同じ緊張感で対 策し続けるのが難しいといった限界があります。
弊社では人間の弱点を補う目的でも利用目的を絞り込んだリスク診断システムを運用 しています。弊社内での運用の場合、「リスクがある」として通知される日報は全体 の13~20%です(リスク通知の基準は調整が可能)。システムが判断した「リスクが ある」という通知について、私の感覚では80~85%位の割合で妥当という印象です。
そのように日報からのリスク通知を活用しているので、リスクに対する意識が喉元を 過ぎることはありません。現場への権限移譲をしながらリスク対策を継続して業績向 上を目指したいと思います。
アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙