mailmagazine201304

私が子供のころから通っている理髪店の店主は、武道に通じた方で空手の有段者でもあります。私が大学生の時、その店主に誘われて空手道場にお邪魔したことがあります。そこでその店主の武道の先生にお目にかかりました。

私の記憶では、その時の先生の年齢は70歳前後だったかと思いますが、その先生が私に棒切れを渡すと、「この棒で、どこでもよいから思い切って私に攻撃してきなさい」と言われました。武道の先生とはいえ年配の方ですので、もし怪我でもされたら大変だと思い、私は少し遠慮がちに棒を振り下ろしました。

その最初の一打はあっさりと避けられました。遠慮がちにとはいえちゃんと先生を狙って振り下ろしたにもかかわらず、先生の道着すらかすめることもなくかわされたのです。次の一打からは、私も本気になりました。しかし、手にした棒をあらゆる角度から何度振り下ろしても、先生はすべて見事に避けたのです。

運動神経や反射神経といった俊敏な動きは、どう考えても若い私の方が有利なはずです。どうして避けられるのか合点がいかない私は、「どうして私の攻撃を避けることができるのですか?」と尋ねずにはいられませんでした。先生の答えは実に明確なものでした。「素人はアクションが大きいので次のアクションが予想できる。あなたの場合、目が次に打ち込む場所を見ているので予想できるのです。」とのことでした。

この「素人はアクションが大きい」ということは、車の運転でも同じことです。私は若いころ、カート・自動車のレースをしていました。車はハンドル、ブレーキ、アクセル操作など、言わば車に対して「刺激」を与えているときが最も不安定な状態になります。そのため、レースにおいては、すべての操作を短時間で、かつソフトでいかに
少ないアクションでこなすかということが求められます。

しかし、自動車の免許を取り立ての人の運転はどうでしょうか?初心者が運転する車の助手席に乗っていると、ハンドルやブレーキ、アクセル操作などが頻繁でアクションも大きく、思わず足を踏ん張ってしまったという経験が皆さんもあるかと思います。初心者の運転はドライバー自体が運転に不安を持っているため、要・不要にかかわらずアクションが多く、そして大きなアクションになりがちなのです。

これらのことは、営業の現場においても同じことが見受けられます。当然ですが、営業の主たる目的はお客様から受注を得ることです。しかし、経験の浅い未熟な営業ほど「売りたい」という気持ちが先走り、一方的に自分の持っている知識や思いをぶつけてしまいます。お客様が「その話は興味がないんだけど・・・」と表情に出しても、
「もっと端的に話をしてくれないかな・・・」と態度に出しても、その表情・態度を見落としてしまいます。そして、多くて大きなアクションによって、自らの手の内を相手(お客様)に見透かされてしまうのです。

経験を通じてスキルが向上してくるにつれて、「相手の話を聞こう」、「まず雰囲気を見よう」ということができるようになります。そして、相手に見透かされる状況から、相手を理解する状況へと変わっていきます。

以前、メルマガで「不安は人をおしゃべりにする」ということを取り上げたことがあります。 不安なとき、人はおしゃべりになるというのは、まさに「しゃべる」という「アクション」が多くなるということに他なりません。武道においても、車の運転においても、そしてビジネスにおいても、未熟=素人という状態から上達する過程でのアクションの変化は、どれも類似しているものです。

アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙