現在の市場は、これまでの数倍の加速度をつけて変化している。 システム・プロバイダの変化が、その市場のスピードに追随できなければ、 おのずと衰退の途をたどるしかない。 生き残るためには、自らの商品価値の再確認と、日次決済に向けた 経営基盤の強化が不可欠だ。

川嶋 謙/アスクラボ社長

IT(情報技術)技術の発達は、今まで存在しなかったインターネット網の発達を促進し、情報の伝達スピードを飛躍的に伸ばした。そして、ライフ・スタイルはもちろんのこと、ビジネス・スタイルも大きく変化させた。商品においてもビジネスにおいても、普及から衰退までのスピードが極端に速くなり、開発者が利益を上げられる期間はたいへん短くなっている。そのスピードは情報の伝達スピードに比例している。

このような状況の中、企業が市場のニーズと動向を捉えることが遅れると、不良在庫や過剰設備、余剰人員を抱えることになり、大きなハンデキャップを背負う。システム・プロバイダは、そうしたスピードに同期して変化できる体制や組織になっているかどうか、早急に見直す必要がある。

現場の経験こそが売れるノウハウになる
市場ニーズの変化を最初に捉えるのは、第一線の営業現場である。だが、その動向を経営に反映させるのは幹部の責任だ。ほとんどの場合、営業現場の第一線は若い人材が多い。つまり市場のニーズを把握しようとした場合、彼らのような若いスタッフが持っている情報や意見が企業の共通情報となっているかどうかにかかっている。特に中堅・中小企業の場合は、経営者や幹部がそうした環境を作っているかどうかが大きなポイントだ。

当社の転機もここにある。前期の初めに各部署の予算を社内の部長会で検討していた時のことだ。その場に上がってきた予算の予想経費を見ると、創業以来初の赤字が予想された。地方都市で市場が冷え切っている経済環境を見れば、やむを得ない状況である。かといって各部署にプレッシャーをかけると、希望的観測による裏付けのない予算が上がってくることは想像に難くない。ここで「予算必達に向けて必死で頑張れ」という指示ほど無駄なものはない。

そこで、今後の方向性について幹部と多くの議論をした。その中で、まず経費の中から、幹部の人件費を含めた経費を差し引いて予算化しようということになった。そうすると黒字化できる可能性がある。つまり、人件費の高い経営陣が組織を管理すること中心になっていたのでは投資対効果が出ないという結論になった。

その結果、当社では社内から部長をなくし、代わりにアドバイザ制度を導入した。人件費の高い幹部が利益を上げる役割を果たし、恩賞的な人事をしないという考えが基本になる。そして、現場のスタッフは基本的に、現業のビジネスに関しては自分たちの責任において業務を完遂する。その過程で、現場のスタッフに経験のない事態が発生した場合にのみ、アドバイザがその事態を打開するための知識を提供することにした。

アドバイザとなる当社の幹部は新しい収入源を得るために自分たちのスキルを徹底的に検証した。それぞれが、今までビジネスの世界で何を経験してきたか、どのような問題点に突き当たり、それをどのように解決してきたか、などなど。得意分野を出し合い、議論することに多くの時間を割くことで、システム・プロバイダとしての新しい方向性を見いだした。その結論が、幹部がコンサルタント業務に乗り出すことである。

当社は設立以来、ハード・メーカーの下請けとしてのシステム構築は請け負わなかった。主に中堅・中小企業の現場でトップや経営陣の悩みや問題点を直接、聞きながら実態を調査し、その業務を改善するためのシステムを構築してきた。その作業に15年間、没頭してきたといっても過言ではない。つまり、中堅・中小企業の悩みと問題点を現場のニーズとして自分の肌で感じてきた。

この間に積んだ業務ノウハウこそが当社幹部が持つ重要なスキルだ。現場に入ってユーザー企業の問題を解決しようとすると、ITで解決できることは思ったより少ない。ほとんどの場合はITを有効活用するための仕組みを作り上げること、つまり業務改善のウェートのほうがはるかに高い。したがって、当社が目指すコンサルティング業務は、例えば世界情勢や業界動向に合わせて企業スタイルを変えていくような「川上から現場に下る」コンサルティングではなく、現場のニーズや問題点を追究し、その改善を示唆するための「川下から上流にさかのぼる」コンサルティングである。

経営基盤強化には日次決算が生命線である
加えて、これからのシステム・プロバイダに不可欠な経営基盤がある。日次決済の仕組みだ。当社は、早い時期からキャッシュフロー経営を目指し、約8年前に日次決算の仕組みを導入した。それまではご他聞に漏れず、決算は会計事務所に任せっきりで、前月の決算数字を知るのにも約2週間を要していた。そんな状態では、いくらスピード経営を行おうとしても不可能である。リアルタイムに会社の状態が把握できていなければ次に打つ手が遅れてしまうからだ。

企業にとって決算書は成績表である。日常の思考活動や行動、判断(企業活動)が、市場の求めているものと一致していればプロフィットとして決算書に表れる。それがミスマッチを起こしていればプロフィットは得られない。企業として早期に状況を把握し対応策を打たねばならないが、日々の成績表が見えていなくては対応策は見つからない。今日のことが分からなければ、長期ビジョンも策定できない。せいぜい2,3年先のことを考えるのが精一杯である。

日次決算を導入すれば、幹部は共通認識のもと利益と経費をシミュレーションできる。幹部個々人の責任範囲も明確にできるので、権限委譲も進む。結果として時代変化に即応したスピーディーな経営が可能になり、システム・プロバイダの大きな武器になる。もちろん、自らが日次決算実現に向けて取り組んだ経験も、コンサルティング業務のためのノウハウになる。

現在、アドバイザとなった管理者は、それまでの管理業務に費やしていた時間を2割以下に引き下げ、今までの経験を生かして新しい収入源を求めている。新体制には、よい意味で副産物が発生した。第1は、幹部が管理を名目に部下の成長を止めているうえに、管理するという行為そのものが現場の情報を遮断していることに気付いたことである。第2は、会社に貢献しているという事実が全社員に行き渡ったことだ。幹部にもプライドがあるので、自らが収入を上げざるを得ないし、その姿が部下にもシステム・プロバイダとしてのミッションを明確に伝えることになる。幹部自身も直接に利益を得ているという実感から生き生きとしている。

※この記事は日経BP社の許可を得て「日経システムプロバイダ」2001年9月28日号p82-p83より転載したものです。