私が営業活動で初めて価格交渉をした相手は、建設業A社のS専務でした。 A社は実績があり利益もよい優良企業で、S専務は「仕事ができる経営者」として地域の建設業界で名が知れていました。私の友人がA社に設計士として勤務していたこともあってS専務のことはよく聞かされていました。
例えば、大手企業の経営者や役員とも交流があり一目置かれているということ、或いは早朝にアポイントなしで商談相手の社長の自宅を訪ねて受注をもらったことなど色々と聞きました。ちなみに早朝アポなし訪問の話ですが、S専務はオールナイト営業の映画館に泊まり込んで早朝の訪問のため待機していたそうです。
現在なら早朝のアポなし訪問は問題になるかもしれませんが昔の話ですので・・・。

さて、A社との商談がありS専務を相手に価格交渉をすることになりました。金額にして20万円程度の商談でしたが、価格交渉をされたら22万円で提示しようと訪問前に決めていました。しかし、A社を訪問してS専務より面と向かって「で、川嶋君いくらなの?」と聞かれた時、私の頭の中には22万円が浮かんでいたのに、口から出たのは「20万円です」という言葉でした。
断られることが怖かったため、価格交渉とはいえない結果になったことを覚えています。

S専務には、その後も様々な商談を通じて営業やビジネスに関することを教えていただきましたが「器」についてもその1つでした。S専務に「川嶋君、大きなビジネスをしよう・多くの経営者と交流しようと思ったら、まず自分の器を大きくする必要がある」と言われ、確かに言われる通りと納得し、自分の器を大きくしたいと思いました。
しかし、器を大きくするために具体的に何をどうすればよいのか、すぐにはわかりませんでしたが何年かが過ぎたある日、ヒントになるような出来事が2つありました。

1つは、初めての弊社セミナーで商材PRのためのプレゼンを担当したことです。お客様を前にして緊張してしまい、声が詰まり、言いたいことがほとんど言えず、恥ずかしい思いをしました。
後日、なぜ緊張したのかを振り返ったとき、本来の自分よりよく見せようとして背伸びをしていたことが原因であると気づきました。その時以来、ありのままの自分を見せるしかないと思うようになり、緊張しなくなったのです。

もう1つは、高スペックカメラを買ったのに使っていなかったことです。妻に反対されつつ少し無理をして高スペックのカメラを買ったのですが、その後使っていないことを妻に指摘されて腹が立ちました。
素直に自分を振り返ると、無理をして購入したにも関わらず確かに使っていないことを自分自身でも自覚していたから腹が立ったのだと思いました。
つまり、「カメラを使っていない」という指摘に対して、使っている自信があれば腹も立ちませんが、使っていなければ「使っている」という自信がなく、自信がない部分を指摘されたため腹が立ったのです。
以降、腹が立つということに対して、客観的な視点で見ることができるようになりました。

この2つの出来事が大きなヒントとなり、何かを判断するとき、反対されたとき、トラブルが起きたときなど何かを口に出す前に、まず頭の中で「器の大きな人間はどのように発言するのか?」ということを一瞬考えるようになりました。
その結果、自分が口にしようとしている言葉がいかに器が小さいかを感じるようになり、多少ですが、器を大きくするための方向が見えた気がしました。

今から考えると、現在弊社のサービスの1つである「トップアプローチ研修」のベースは、このS専務との交流がきっかけになっているのかもしれません。

アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙