信頼の構築~印象に惑わされない~【アスクラボメールマガジン2019年1月号】

社員数約8,000名の一部上場企業X社に対し、営業力強化のご支援をさせて頂いたところ、同社のA社長にお会いする機会を得ました。面会の場でA社長とお話しをさせて頂いていると「君は生きた財務を理解している」と言われ、その場でX社スタッフの研修を依頼されました。

後日、マネージャークラスの方々を対象としてイメージした研修提案書を作成してA社長に説明に伺ったところ、マネージャークラスではなくもっと上層部の部門長クラスを対象に研修を実施してほしいという要望を受けました。なぜ部門長クラスを対象とされるのかをA社長にうかがったところ、「クラウドサービス等のために何十億という先行投資をしているが、各部門長からの業績報告は対予算のことだけで、減価償却や投資した金額がいつ回収できるのかなどは頭にないから・・・」と言われ、急遽部門長研修をお引き受けすることとなったのです。

X社には約100名の部門長がいらっしゃるため、複数グループに分けて順次研修をスタートさせましたが、正直なところ受講された部門長には、「なぜこの研修を行っているのか」というA社長の意図は通じていない状況のようでした。そのため、講師としても研修をやりやすい環境ではありませんでした。
その後、A社長より研修の状況を報告するよう依頼があり、X社の役員会の場で研修の状況を率直かつ正直に説明・報告しました。途中まではご機嫌もよく私の報告を聞かれていたA社長でしたが、「社長の意図・考えが部門長に伝わっていない」という報告を聞いたとたんに表情が曇りました。
そして「意図が伝わっていないというようなことはありえない。私は部門長に対して毎週のように説明をしている!」と強めの語調で言われました。それに対して私は、「いくらA社長が説明されても、説明される側が理解していなければ意図は伝わっていないのです」と答えると、A社長は少し感情的になられたようで「それは誘導尋問ではないか!」と怒気を含んだ言葉が返ってきました。

同席されていた役員の方々は一様に嵐が過ぎるのを待っているかのようでしたが、B常務だけが私を援護するようにご自身の考えを発言されました。しかし、A社長は聞く耳を持たないご様子で、その場の雰囲気は非常に感じが悪くなり、自然解散的に役員会は終了することとなりました。帰り支度を終えてエレベータホールに向かっているとき、見送りして頂いたC副社長に「アスクラボさんの言われる通りだと思います」と小声で言われましたが、「それは今ではなくあの場で言って頂きたかったです」と苦笑交じりに答えました。

それから数か月後、X社のB常務と食事をする機会がありました。B常務によると、私との会食スケジュールを見たA社長より「研修報告の場でのやり
取りは私が間違っていたと川嶋社長に伝えてくれ」と伝言を依頼されたとのことでした。その後、A社長と二人で会食の場を持ち、改めて交流が始まりました。

社長の人となりについて、瞬間湯沸器のようであり、言い出すと攻撃が止まらないが、報復的な人事は行わない人であるとX社のスタッフにうかがっていました。研修状況報告の役員会の場で、A社長の勢いに負けてへつらうような態度をとっていたら、A社長とのその後の交流は無かったかもしれません。
そして現在、あの役員会の場でA社長に対して唯一私を援護して頂き、ご自身の考えを発言されたB常務がX社の社長に就任されています。

                     アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙