私が営業を始めて4~5年経った頃のことです。自分で言うのもなんですが、当時の私は本当に一生懸命に営業活動をしていて、営業という仕事が自分に向いているのではないかと少し思い始めていました。そんなとき、取引先の社長より次のようなことを言われました。

「君を見ていると、気の毒というか少し痛々しいとさえ感じる。将来ビジネスで成功したいのであれ、他のことは考えず、今はまず相手から信頼を得ることに注力しなさい。約束を必ず守って相手から信頼を得ることができれば、将来君の力になってくれる協力者が増えて自然に業績や成績が上がってくる。信頼という意味を考えなさい。」

ビジネスの世界では大先輩であるその取引先の社長に言われたことを一人で考えているとき、高校時代のある出来事を思い出しました。
スキー仲間である高校の友達と4人でスキーに行ったとき、スキー場で偶然、高校の体育のA先生と会い、しばらくの間その先生と一緒にスキーをして過ごしました。それから何日か後のことですが、地域のスキー大会に私の高校も出場することとなり、選手選考をA先生が担当されました。そして、一緒にスキーに行った仲間の中で、私以外の3人が選手として選出されたのです。
私はなぜ自分が選手に選ばれなかったのか理解できませんでした。A先生は私のことを忘れているのではないかと思いました。今になって考えると恥ずかしいことなのですが、私はその時、スキー仲間4人の中で自分が技術的に一番未熟であるとは気づいていなかったのです。そのため、A先生が私の顔を見れば「ああ、君のことを忘れていた!」と思い出して選手に選んでくれるのではないかと思い、学校の廊
下などでA先生の前にたびたび顔を出していましたが、選ばれることはありませんでした。それでやっと、今の自分の実力・技術の未熟さに気づかされたのです。
それからは、人の評価を気にすることより技術を上げることに専念し、一年後には選手として選出され、地方の小さな高校生の大会ですが優勝することもできました。

大先輩である取引先の社長が言われたことが、この出来事に重なるように思いました。営業スキルも未熟であるのに、背伸びをした営業活動をして、当時の自分を実力以上によりよく見せようとしていた私。過大な表現や出来もしない約束など、相手から見るとすべて見破られていたのだと思います。そんな今の自分の実力や状況に気づかないで懸命になっている私に対して、このような活動続けると信頼を失う結果になることを案じて、私が気づくように諭してくださったのだと思います。

このことがあってから、営業活動だけではなく付随していろいろなことに対して考え方が変わりました。例えば、結婚披露宴に招かれて人前でスピーチをする場合など、あまり緊張をしなくなりました。緊張する理由に気づいたからです。今の自分をよりよく見せようと思ったり、聞いている人によいスピーチだったと思わせようとしたり、そのような「思い」が強くなるほど緊張してしまうのです。そうではなくて、今の自分、ありのままの自分を見せて、聞いている人の反応見ていれば、自分の未熟な部分がつかめる絶好の機会だと思えるようになりました。

大先輩の貴重なアドバイスは、今も大事に心に留めています。

                      アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙