今から数年前のことですが、社員数1万人余を誇るITベンダーへ弊社の営業力強化ソリューションを提案しました。役員、事業部長クラスの方々10名程を前にしてプレゼンを行っている最中に、突然、役員のお一人が次のように発言されました。

「ここにいるうちのメンバー全員が、アスクラボさんの話をうのみにしているわけではありませんよ。」

一瞬にしてその場の空気が冷たくなりました。プレゼンを担当していた弊社スタッフも動揺してしまいました。そこで私は、その役員の方の発言に対して次のように回答しました。

「弊社でトップである私が話をしても、弊社スタッフの全員が私の話をうのみにすることはまずありません。社内でもそのような状態ですので、他の会社の方々全員がうのみにされないのはむしろ当然のことだと思います。」

すると、「うのみにしているわけではない」と発言された役員の方をはじめ、先方の皆さんから「それはそうだ」と笑いがこぼれ、多くの方がうなずかれました。同時に、冷たかった空気がやわらいで、弊社スタッフも自身のペースを取り戻して無事にプレゼンを終えることができました。

さて、そのプレゼンの帰り道で、弊社スタッフが「社長、先方の発言に対してとっさにあのような返答をよく思いつきましたね」と感心した様子で聞いてきました。
私は、それまでの営業活動において、たくさんの方々が出席するプレゼンや説明会といった場面を数多く経験してきました。その経験の中で、プレゼンや説明会の参加者全員が、納得して賛同して共感してくださることはまずあり得ないということを学びました。賛同してくださる方もいらっしゃれば反対する方も当然いるというというのが、私にとっては普通のことでした。

今回のプレゼンにおいても、賛同してくださる方もいらっしゃるが反対する方も当然存在すると予想して、反対の方から反論や多少の嫌味などがあった場合、まともに正面からぶつかるのではなく、どのようにすれば反対された方の顔をつぶさずに、また、仮に反発があったとしても後で修復が可能となるような表現で対応できるかを、事前に想定して準備していたから答えられたのです。スタッフには、私がその場で考えて対応したように思えたのでしょうが、そのようなことはなかなかできることではありません。

起こり得ることを想定して事前に対応の準備を行うことは、ビジネスにおいても勝負を決めるほど重要であることを改めて感じたケースでした。
         
                     アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙