20年以上も昔のことになりますが、思い出に残る商談があります。それはある金融機関に
向けた商談でした。
コンピュータメーカN社の営業担当と私とで、プレゼンを行ったときのことです。経営トップのA氏を含めた役員10名程度を前に提案プレゼンを行ったのですが、終始渋い顔でプレゼンを聞いていたA氏が、「うちはフェイス・トゥ・フェイスでお客様に対応するのが信条なので、IT化はあまり進めるつもりはない」と発言され、居並ぶ役員の面々もトップであるA氏の意向には逆らえない雰囲気となり、同調して皆がうなずかれました。

アプローチを行っている側にとっては非常に気まずく、かつ不利な状況になってしまいました。
その当時30歳代の後半だった私も、若かったせいかストレートに次のような反論をしてしまいました。「お客様がフェイス・トゥ・フェイスで接することを望んでいるということは確認されましたか?その確認がなされていないままにビジネスの方向性を出されるのは、リスクが大きいのではありませんか?」私の言葉にA氏は少し機嫌を損ねられたようで、良好とは言えない雰囲気のままでプレゼンの場は終わりました。プレゼンの帰りにメーカの担当者とお茶を飲みながら、「この商談の受注は難しいでしょうね」と話したのを覚えています。

そのプレゼンから2~3日後、A氏の秘書の方から電話があり、私はA氏と面会することになりました。そして面会の当日、冒頭でA氏は私に問いかけました。「私は直感で経営しているが、正直なところそれで業績もよい。私の知り合いの経営者も直感で経営をしているが、そこも業績が非常によい。ITは直感に勝てるか?」その問いかけに、私は冷静に自分の考えを述べました。「たしかに「経営」という総合的な面に関してはITより経営者の直感の方が勝っているかといます。しかし、永久に企業のトップを続けることは不可能です。いつか後継者にその位置を引き継がなければなりません。その時、「直感」を後継者に引き継ぐことは不可能です。しかし、ITが持っているデータや資料は引き継ぐことが可能です。それがITの良いところです。」

その後、プレゼン帰りにメーカ担当者と話した予想に反して、その金融機関は提案を受け入れ、システムの導入が決まりました。

当時、弊社は後発業者という立場であり、他社のお客様をリプレースしなければ会社が存続できない環境でした。今から思い返すと対企業トップへの営業活動としては、多少過激な発言だったと感じますが、後発であるが故に他に遅れている・劣っていることを前提とした上で、企業トップへのアプローチ、また課題の本質を追及するという弊社の原点が、この商談の中にあるように感じます。

           アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙