私は若いころ自動車のレースに参加していました。自分が好きで始めたレースでしたが、参加するときはいつも恐怖心がありました。来月のレースに参加するかどうかをチームメンバーから問われ、「参加します」と回答はするものの「今度事故をするの は自分ではないか?」という恐怖心がありました。そのため、「いつでも参加を取り やめることはできる」という“逃げの心”を持ってレース当日までを過ごしていました。
レース当日は朝から参加をやめる理由ばかり考えており、サーキットに行ったら「今 日は体調が悪いからレースをやめたい」と、どのタイミングでメンバーに言おうかと 思案していました。しかし、そんな私の心を知らないメンバーは着々と準備を進めま す。心が決まらないまま車に乗り込み、シートベルトを締めてエンジンをかけると、 さすがに参加を取り止めることはできないと心が決まります。そして、心が決まると 同時に恐怖心がなくなり、レースに対して前向きかつ攻撃的な気持ちになっていました。

これも若いころのことですが、あるとき原因不明の腹痛に襲われました。その痛みが普通ではなく「何かが違う」と漠然とした不安を覚え、また、時間とともに痛みがひどくなったため病院へ駆け込みました。診察だけでははっきりしたことがわからず、入院して検査をすることとなりましたが、いろいろな検査をしてみるものの原因がつかめず、数日は痛み止めを打ちながら耐えて過ごしました。
最終的には原因も特定できて手術をすることとなりましたが、この経験で一番恐怖心があったのは、開腹手術に臨むときではなく、いろいろな検査を行っているにもかかわらず原因が特定できないときでした。腹痛の原因がわかって手術をすると言われたときは、今まで抱えていた恐怖心が失せて、これから本当に治療が始まる・病気を治すことができるという前向きな気持ちに変わりました。

さて、弊社はSIビジネスを中心に経営をしてきました。しかし、ある時期から市場・ お客様のニーズが変わり、システムを一からスクラッチで開発するということが少なくなりました。その当時の弊社は、予算も組織もシステムのスクラッチ開発を行うこ とを前提とした体制でしたので、このままではスタッフを半数程度に削減しなければ会社が存続できないという不安を抱えていました。しかし、その不安を抱えながらも、スクラッチ開発のオーダーがまだあったため、私を含めてスタッフ全員が市場の変化に逆行してスクラッチ開発の商談を一生懸命探していました。そのときの私の気持ちは「不安」から「恐怖心」へと徐々に変化しました。 そして、恐怖心もピークに達し、いくら社員全員が努力してもスクラッチ開発中心のビジネスでは会社の存続は無理であると心を決めて、新たなビジネスへの転換を決断しました。今まで弊社が最も経験してきたことは新規開拓営業です。ユーザ数ゼロで会社を設立し、仕事をくれる親会社もない状況で、営業スタッフや技術スタッフが危機感を持って協力して組織連携で営業活動してきました。もちろん成功も失敗もありましたが、実体験での成功・失敗こそが弊社の財産・ノウハウであり、その経験基にして組織営業力強化システム「PROナビ」の開発を決めました。 やるべきことが明確になった後は、たとえ損益が合っていなくても、恐怖心や不安というより、やるべきことに対する将来の夢や希望へと変化していました。

趣味のレース、不意に襲った病気、本業のビジネス、それぞれの場面でそれぞれに直面した恐怖心ですが、逃げることができないと腹をくくったり、わからなかった原因がつ かめたり、やるべきことが明確になると、人の気持ちは「後ろ向き」から「前向き」に変化することを実感しました。

アスクラボ株式会社 CEO 川嶋 謙